「猫の老後」について、〝サルコペニア肥満〟から考えてみる・・・その2
前回のコラムでは、「サルコペニア」と「フレイル」の用語解説的な内容となってしまいましたが、本題をご理解いただくために、お話しました。
若干、解説の続きとなってしまいますが、「サルコペニア肥満」について確認をします。
脂肪細胞や筋細胞からは、通常様々な働きをするサイトカインやホルモンんなどの生理活性物質が分泌されています。
肥満により、生理活性物質のバランスが崩れると、筋細胞へ影響し、加齢によるサルコペニアがより悪化することになります。サルコペニアによる筋力の低下や活動性の低下は、肥満を悪化させるという、悪循環となります。
生理活性物質の不均衡は、全身の慢性炎症を助長したり、インスリンの抵抗性を増す事になり、これらの事が更なる生理活性物質の不均衡へと影響する事になります。
この様な状況に加えて、微小循環不全や代謝異常、腸内細菌叢の変化などの多様な因子が複雑に関係し、病態を形成していくことになります。
サルコペニアは加齢に伴う変化ではありますが、人の場合、栄養療法と運動療法でその進行を抑制できるとされています。
また、肥満症は食事療法と運動療法により改善が見込めます。
サルコペニアと肥満症の双方に対する対策によって、糖尿病、代謝異常、心血管疾患、脳血管疾患のリスクが低減されます。
また、サルコペニアが元になるフレイルが抑制される事で、認知機能の改善にも繋がり、結果として生活の質(QOL)が向上されます。
ここで症例を示します。
日本猫、ミコちゃん、避妊雌、16歳、体重6.1kg
栄養状態の指標となるBCSが4/5で過体重から肥満が認められた
筋肉量の評価となるMCSでは肩甲部から腰椎にかけて中等度の消耗が認められた
↓
18歳 体重7.7kgまで増加
視診及び触診から、胸部周囲、腹腔も含めた腹部周囲の脂肪の増加が認められた
肩甲部から腰椎にかけての筋肉の重度の減少が認めれれた
半年前くらいから腰の付近を時々痛がる
最近はトイレや食事以外はあまり動かなくなった
排便間隔が長く便秘気味
時々頻尿や血尿がある
食欲にムラがある
レントゲンの所見


黄色い線の囲み :脂肪・・・内蔵脂肪が多い 肋骨脇から腹部の皮下脂肪が多く胸郭を圧迫している
オレンジの線の囲み :腰椎の変形性脊椎症と膝関節の変形性関節症
緑の✗印 :便秘の便
青線の囲み :MCSの指標である脊椎脇の筋肉の減少
身体検査所見から
肛門の周囲の皮下脂肪が多いため、肛門周囲に便が付着しやすく、下方に続く陰部にも汚れが付いた状態がある。太り過ぎで自力で肛門や陰部周囲の毛繕いが出来ず、汚れが常態化している。
主な病状
骨関節症による疼痛、難治性の細菌性の膀胱炎、便秘を含めた消化管運動の低下
考察として
長年肥満症で過ごして来た猫が、加齢とともに骨関節症となり、活動性が低下しました。
同時にサルコペニアが進み、更に筋力が低下することで行動が少なくなり、それまであった肥満を助長させることになりました。
便秘や膀胱炎は現在までの生活環境(トイレの環境など)が大きく影響している面もありますが、肥満症自体が便秘や尿路感染症の大きな要因となってしまいました。また、便秘に伴う腸内環境の変化や膀胱炎による慢性炎症も、サルコペニアや肥満症に大きく影響しています。
この症例以外でも、肥満である猫と標準体型の猫で比較した場合、例えば膵臓炎や肝臓病、腎不全など、シニア期に多い疾患になった時の回復の度合いや予後の過ごし方において、肥満である猫の方が経過があまり良くないと思われます。
それでは、どの様に対処していくことが望ましいか考えてみましょう。
上述したように、人ではサルコペニア肥満の治療には、食事療法、栄養療法と運動療法が全て必要です。
猫も理屈上は、人と同様な事が考えられます。
ただし、猫が人と決定的に違うのは、運動療法が現実的には非常に難しい事です。
つまり猫の場合、食事療法と栄養療法が治療の中心になります。
人のサルコペニア肥満において、様々なスクリーニング検査によってその兆候を捉えることで、できる限り早期から対処して行く「予防」が非常に重要であり、有効とされています。
その対象年齢は40歳からとなっています。
(人では、筋力身体機能検査、筋肉量や内蔵脂肪面積、体脂肪率などの測定等を用いて総合的にサルコペニア肥満のステージを確認していきます)
猫の年齢を人の年齢に換算した場合、人の40歳は猫の年齢のおよそ6−7歳になります。
ちょうどシニアの入口とも言えます。
猫においても、本来「予防」が重要です。
猫は運動療法が現実的では無いことと、猫は簡単に食事を変更できない事が多いと言う点考慮すると、日々の、特により若いときからの食生活が重要である事がご理解いただけると思います。
猫の食事の重要性に関しては、過去コラムをご覧いただきたいと思いますが、特に嗜好の幅が狭い高齢の猫のそれまでの食事を、適切な食事に変更していくことには非常に根気が必要となります。
因みに、サルコペニア肥満に対処するために、単純に〝〇〇歳以上の猫用〟などの、いわゆる〝シニア用のフード〟(特にドライフード)へ変更すれば良いかと言えば、残念ながら殆どのケースにおいては該当しないと考えられます。
食事や肥満については過去コラムでお話していますので、まだご覧になっていない方は、是非ご参考にして頂けたら幸いです。
10歳以上、もしくは15歳以上の猫でも、まだまだ食事を見直す事は十分にできます。
人それぞれですが、できるだけ〝穏やかな老後〟を過ごしたいと願います。
同様に、多くの猫にも〝穏やかな老後〟を送ってほしいと思います。
この機会に食生活を一度見直してみましょう。
栄養面も含めて食事を考えるためには、動物病院へのご相談をお勧めします。
