避けては通れない? 「猫の肥満」のお話し
暖かいお部屋で冬の味覚が美味しい季節になってきました。
ネコちゃん達も暖房の近くで、日がな一日、温々と過ごす季節です。
「猫肥ゆる冬」と言った所でしょうか?
今更なお話しとなってしまうかもしれませんが、「猫の肥満」について、改めて考えて見ませんか?
少し前のデーターにはなりますが、世界(英国、デンマーク、米国)や日本の猫の肥満率を調査したところ、家庭で生活している猫の40−50%の猫が肥満である事がわかります。
当院においても、多くのねこちゃんにご来院頂いている中で、概ね同様の傾向が認められています。
人は、様々な要因があると思いますが、多くの場合、当事者であるご本人が様々な食べ物を自らの選択で
「過剰に食べ過ぎてしまう」事が、肥満の主な原因になっていると思います。
猫の場合は?
・・・確かに、猫も自ら食べたい時に食べたい分だけ食べているかもしれませんが、前提として、
「人が与える食べ物を食べているだけ」と言えます。
つまり、人が与える食べ物や与え方によって、結果としてその猫が肥るか痩せるかが、決まります。
そんな事は分かり切った事だ、と言われてしまうかもしれませんが、その結果、40−50%の猫が肥満となっています。
そもそも、肥満で何が悪いのか?っと、思われる方も多いと思います。
肥満は、言わずと知れた「病気のリスクがありますよ!」と言う事です。
一般的に良く言われている事ですが、肥満は糖尿病や脂質代謝異常、その他様々な炎症反応の増加、酸化ストレスの増加等により、多くの病気に関係します。
また、過剰な皮下脂肪や内臓脂肪が呼吸器や消化器、また泌尿器への負担に繋がる事も珍しくありません。
骨格に対して余分な体重は、関節への負担にもなります。
・・・・・と、言われても、あまりピンと来ないのが実感かと思います。
ここで、唐突ですが、
そもそも「猫はなんで病気になるの?」と、そう簡単ではない話を少し考えて見ます。
猫の体調不良や病気の原因を考えた場合、外傷、感染症、遺伝的要因や老齢性等を除いては、そのほとんどが
生活習慣や生活環境が関係していると考えられます。
統計学的データーではなく、あくまでも個人的な経験と実感ですが、割合的には50−60%はあると思います。
これを言い換えれば、生活習慣や生活環境を見直したり、改善する事で、多くの病気や体調不良を防ぐ事が出来ると考えられます。
それでは、前述の50−60%の病気や体調不良が、全て肥満に関係しているか?
肥満さえしなければ病気にならないのか? と言う疑問が湧きます。
確かに、肥満していたら必ず病気になるとは一概には言えませんが、「猫」と言う動物の特性を考えた場合、肥満のリスクは人間に比べ、より深刻な問題と考えられます。
また、猫が肥満になる仕組みを考えて行くと、極端な言い方をすれば、
本来「猫」は、「肥満してはいけない動物」と言えるかも知れません。
・・・・・肥満は良くないと分かっている、だから、ダイエットフードも与えて頑張っています!
と、言う意見も少なくないと思います。
実際に日々の診療の中で、ご家族からのご相談として、
猫のダイエットを考えて「減量用やライトタイプ、インドアキャット、体重管理、避妊去勢猫用」等々、様々ないわゆる “ダイエットフード” を試しているけれど、中々痩せられない! と、伺う事が珍しくありません。
ダイエットフードを与えているのに「どうして痩せられないのか?」を、考える為には、
「猫はなんで肥ってしまうのか?」と言う事を今一度、確認する必要があります。
更に、猫の肥満を考える上で、猫と言う動物の「本来の習性や特性」と、それに関連して重要な「血糖値」について考える必要があります。
大部ややこしい話となって来ましたが、しばしお付き合い頂けたら幸いです。
猫は本来“狩猟”をして、“獲物”を食料とします。
生きるための糧を得るためには、“狩猟”と言う「運動」を、食事の前に必ず、日々する事になります。
食事をすると、その後血糖値が上がり、「インシュリン」が働いて、食後に血糖値が下がります。
実は、運動時に主役となる筋肉(骨格筋)は、インシュリンに依存せずに血糖値を下げる働きがあります。
また、運動で筋肉が刺激される事で、インシュリンの感受性が良くなります。
猫が本来食事の前に必然的に行う狩猟という「運動」は、食後に上がる血糖値に対応するための、準備とも言えます。
猫の特性について、人と比較しながらもう少し見てみましょう。
人を始め、「甘味」を感じる事のできる動物では、甘味を感じた時点(実際の血糖値が上がる前)で、食後の血糖値の上昇に備えるように自律神経が働き、インシュリンが反応し易くなります。
これに対して猫は、「甘味」を感じる事ができない為、食事を開始した時点で、このような働きがありません。 (食前の運動以外に、血糖値の上昇に備える様な働きがありません)
猫は本来、完全肉食動物である事から、食事からの主要な栄養源を蛋白質としています。
その為、肉質を主体として食事を摂った場合、消化管から吸収されるのはグルコース(血糖の元)ではなく
アミノ酸となります。
アミノ酸は肝臓でゆっくりとグルコースへ変換されて、その後必要に応じて血糖値が上昇する事になります。
また、猫は吸収したグルコースを分解する酵素の働きが著しく弱いため、一度上がった血糖値が下がる為には時間がかかります。
このように猫の食性と生理的な働きを考えた場合、家庭で生活している多くの猫は、何もせず(運動を必要とせず)ドライタイプ(必然的に糖質が多くなる)のキャットフードを食べることで、本来の身体が必要とする以上に高い血糖値となり、これを繰り返す生活を送ることになります。
それでは、「猫」にとって、この血糖値の何が問題かを確認してみましょう。
人も含め通常、食後には血糖値が上昇してエネルギーとして利用されますが、必要以上の余分な血糖がある場合、脂肪細胞に取り込まれ、脂肪酸として貯蔵されます。
余分なカロリーを摂り続けたり、運動不足などで消費されない場合、貯蔵される脂肪酸の割合が増え、脂肪細胞が肥大化します。更にこの状況が継続すると、脂肪細胞の数が増え肥満度が一層増して行きます。
本来、適度な脂肪細胞からは、血糖値を下げる為に働くインシュリンの反応を良くする物質が分泌されています。(この物質はこのほかにも様々な働きを持っていて、かなり重要です)
しかし、肥満状態、つまり過剰に肥大化したり数が増えた脂肪細胞からは、「炎症性サイトカイン」と言われる様々な物質が分泌されます。
一方、インシュリンの反応を良くする為の(血糖値を下がりやすくする)物質の分泌は少なくなってしまいます。
肥満が進む過程で、脂肪は皮下脂肪だけでは無く、内臓にも蓄積して行きます。
脂肪の蓄積が進む程に、血糖値・脂肪細胞・炎症反応、それぞれが悪循環がとなり、様々障害の頻度が高くなります。(脂肪毒性とも言えます)
猫では特に、本来の食性から離れた食事(高炭水化物、低タンパク質)を食べ続けた場合、余分な血糖が増え、脂肪や脂肪細胞に変わり、結果として肥満となっていきます。
そして肥満度が増すほどに、また肥満が長く続くほどに、益々血糖値が下がりづらくなってしまいます。
例えばその中で、インシュリンを分泌する細胞に炎症が起こると、やがてその細胞の機能が破綻してしまう事があります。その結果、糖尿病になってしまいます。
この時点で、それまで肥満だったことを後悔し頑張って痩せてみても、インシュリンが分泌されなければ、
糖尿病の治療の為にはインシュリンの注射を続けていく以外に方法は無いかもしれません。
「なぜ猫が肥満になるのか」をまとめると、次の様になります。
・ 猫は本来、狩りをして、高蛋白質な食べ物から、適度な血糖値を得て生きている動物。
・ 猫は本来必要とする以上の血糖値を下げることが不得意な動物。
・ 家庭で生活し、低タンパク高炭水化物のキャットフードを食べていると、血糖値が高くなりやすく、
結果として肥満し易くなる。
・ 肥満になる事で、益々血糖値を下げづらくなり、更に肥満し易くなってしまう。
長々と説明してきましたが、以上の事を考えて行くと、
猫がどのように肥満となり、どうして中々痩せられないかが、ご理解頂けたと思います。
また、「なぜ猫が肥満してはいけないのか?」 も、ご理解頂けたでしょうか?
ただ、 “ライトや減量用と言われるドライフード“ を与えていても、なぜ実際にはあまり成果が出ないのかについては、まだ十分ではないかも知れません。
・・・・・結局、「どんなフードが良いの??」
と、言う事ですが、次回のコラムでフードの成分等を踏まえて、ご説明します。
猫の食事に関して、多少説明が重複しておりますが、過去のコラムも合わせてご覧頂けたら
幸いです。
本当に猫の事を考えた・・・猫の食事について
http://www.sakura-ahp.com/2019/11/28/2609/
本当に猫の事を考えた・・・猫の食事の選び方
http://www.sakura-ahp.com/2020/01/01/2668/