症例紹介の2頭の猫から考える〜猫の糖尿病について
*このコラムをお読み頂く前に、症例紹介をまだご覧になられていない方は、症例紹介をご一読頂けたら幸いです。
症例紹介その1 症例紹介その2
インシュリンから離脱が出来てから、
症例1のロニーちゃんは、もうすぐ1年になります。
症例2のヴィヴィちゃんは、もうすぐ7ヶ月になります。
現在の所、それぞれの猫が安定して生活を送ることが出来ています。
猫の糖尿病には様々な要因が関係しますが、インシュリンに関する点から糖尿病の原因を大きく分けた場合、
「インシュリンが不足した状態」と「インシュリンはある程度出ていてもインシュリンが効きづらい(抵抗性がある)状態」に
分けられます。
これはどちらだけが原因と明確に分けられる訳ではなく、それぞれの程度が強いのか、弱いのかと言う事が関係します。
念の為お断りとして、糖尿病の原因をお話する上で、このコラムでは特殊なホルモンの問題や、他の病気の治療による薬の影響、また極稀にある先天性の問題については割愛します。
ちなみに、猫を実験的に高血糖状態にした場合、始めの3−4日間はインシュリンの分泌が亢進されますが、その後は高血糖が持続してもインシュリンは分泌不全になり、そのまま分泌が十分できない状態が続きます。
この様に高血糖の状態が一定期間続き、自身のインシュリンでは血糖値を下げることが出来なくなった場合、血糖値を下げるためには注射による外部からのインシュリンが必要になります。
猫の糖尿病の原因として多くの割合を占めていると考えられているのが、人の2型糖尿病に類似した状態です。
何かしらの要因で血糖値が高い傾向にある状態が続くことによって、インシュリンを作る細胞が疲弊しさらに変化して、インシュリンが枯渇してしまい糖尿病になっていきます。
またその他に、猫の糖尿病に高い割合で関係している病態として、膵臓炎が上げられます。
膵臓炎は急性に起こることもあれば、単独または他の病気との合併症として潜在的に慢性化している場合もあります。
膵臓炎によって膵臓のインシュリンを分泌する細胞が障害を受ける事によってインシュリンの分泌が不十分になり、
糖尿病になる場合があります。
これら2つの状況においては、インシュリンが効きづらい状態から始まり、インシュリンが不足した状態がより強くなっていると考えられます。
いずれにしても、糖尿病になりインシュリン注射の治療が必要になった場合でも、インシュリンを分泌する細胞にインシュリンを分泌する能力が残されていれば、治療によって血糖値が適正に保たれることで、インシュリンの分泌能力が回復する事があります。
一方、既にインシュリンの分泌がほとんど出来ない程のダメージを負っている場合は、継続的なインシュリン注射が必要になります。
猫の糖尿病性ケトアシドーシスは、インシュリンの分泌不全が起こり始めてから最短で16日以内に起こることが分かっています。しかし実際に糖尿病性ケトアシドーシスによって非常に重篤な症状になるまでには、それよりももっと長い期間が経過していると考えられます。
高血糖で長期間経過したことによって既にインシュリンの分泌細胞が回復不能な状態になっていることがありますが、
症例の2頭の猫は、幸いまだインシュリンを分泌する能力が残されていたために、治療によって状態が安定した後インシュリンの分泌が正常に戻ってくれた結果、インシュリン注射から離脱が出来ました。
・・・・・・・
ここで重要なのは、
「重症の糖尿病の猫が治療によって回復し、さらにインシュリンも必要なくなって良かった、良かった」
・・・・・・・と言うことではありません。
改めて、そもそも「なんで糖尿病になってしまったのか?」と言う事を今一度考える必要があります。
猫の糖尿病の原因として、成書では次のように述べられています。
「肥満やストレス、なんらかの併発疾患により高血糖が持続すると・・・」とあります。
〝なんらかの併発疾患〟で最も割合の高いとされているのが、上述の膵臓炎ということになります。
では、膵臓炎の原因の教科書的な説明を確認すると、
「未だ不明が多いが、膵酵素の不適切な活性化により・・・・
・・・・その他に遺伝的背景、ストレス環境、感染、外傷、他臓器の炎症・・・」と続きます。
糖尿病や関連する膵臓炎には様々な要因がありますが、中でも「ストレス」は少なからず関係していると考えられます。
また、成書では直接的に述べられていませんが、「肥満や血糖値、膵酵素の活性」などの記述から、当然「食事」も関連していると考えられます。
長くなりますが、「ストレスと食事」がどのように関わっているかを、2つの症例でもう少し考えてみます。
動物や人にとってストレスが増えると、いわゆるストレスホルモンや自律神経に影響(交感神経優位)が及ぶため、
この状態は血糖値を上がり易く、下げづらくすると言えます。
猫にとって食事、特にドライフードが、過去のコラムでも触れているように猫の血糖値に大きく影響していると考えられます。
(ここは重要なのでご確認いただけたら幸いです)
猫の糖尿病に「ストレスと食事」が関係しているとすれば、もっと多くの猫が糖尿病を発症している事が考えられます。
しかし、実際には猫の糖尿病がそれほど多い病気にはなっていません。(潜在的な、糖尿病予備軍がどの程度いるかは分かりませんが・・・)
理由としては、おそらく猫が糖尿病になるまでには、それぞれの猫にとっての様々なストレスに対する感受性の違いや、それぞれの猫のインシュリンの分泌能力の違いなどが関係していると考えられます。
(勿論、他の要因の影響も含めて考える必要があります)
いずれにしても、
糖尿病になってしまい、瀕死の状態から治療により回復して、血糖値が安定し正常値に戻り、さらにインシュリン注射が必要なくなったとしても、糖尿病の発症前と同じ生活(食事や環境)へ戻った場合、糖尿病の再発の可能性が高くなります。
そこで、糖尿病の再発を防ぐためには、特に糖尿病の猫にとって高血糖に成り易いと考えられるドライフードから、本来猫に適正な栄養と考えられるウエットフードへ切り替える事が望ましい(必要とも)と考えられます。
ドライフードからウエットフードへ切り替える事は、猫にとって望ましい食事から十分な水分を摂取できる事にもなります。
また、血糖値を下げづらくする事に関係する「ストレス」を減らすためには、それまでの生活環境を見直す事が必要です。
(環境やストレスについても、過去コラムをご参考にして頂けたら幸いです)
最後に
猫の糖尿病は、特殊な原因を除いては、正に「生活習慣病」と言えると思います。
人の生活習慣病と言えば、御本人の自覚のもとで、改善されなくてもある意味「しょうがない??」とも言えます。
しかし、猫にとっては「食事」や「ストレスに関連する環境」は、猫が自分ではコントロールすることの出来ない事柄です。
食事と環境を見直したり改善することで、病気を予防できるかもしれません。
また、食事や環境を見直すことそのものが、「治療」と言えるかもしれません。
最近、猫の糖尿病に対する「新しい経口薬」が発売されました。
「糖尿病にインシュリンの注射じゃなくて、飲み薬で良いなんて、画期的??」
と、安易には考えられません。
このコラムでは薬について詳細は述べませんが、もしこの薬を使うとしても、その前に検討する事があります。
非常に限られた症例に、かなり注意深く使用する必要のある薬だと、個人的には考えます。
ここまでお読み頂けた猫ちゃんのご家族の方には、改めて、食事や環境を見直して頂くことをお勧めします。
ネットには様々な情報が散見されますが、現状の生活環境や食事についての見直しは、実際の生活状況をしっかりと確認した上で、細かく考えていく必要があります。
かかりつけの病院で、一度ご相談される事をお勧めします。