猫の心臓病とキャットフードについて ・・・思うこと
はじめに
猫の心臓病について、非常に簡単にお話をすると、
猫の心臓病は「心筋症」と言われる、心臓の筋肉の病気です。
心筋症の原因は、遺伝的影響が大きいと言われていますが、遺伝子変異を持っていても必ずしも発症するわけでは無い事と、遺伝子変異を持たない猫でも心筋症の発症が認められています。
心筋症は心臓の筋肉に「変性」(筋肉の質の変化)が起こるわけですが、その根本的な原因はまだ十分に分かっていません。遺伝的影響以外でも、様々な環境的な要因からの影響も考えられます。
猫の心筋症は大きく5つのタイプに分類されていますが、その中で60〜70%を占めるタイプが、これからお話をする
「肥大型心筋症」と言われています。
肥大型心筋症は、心臓を形造る心筋と言う「壁」が、心臓の内側へ向かって肥大、つまり厚くなって行きます。
そのため本来血液が流れ込むはずの空間が非常に狭くなり、血液の流れが悪くなります。また心筋そのものに酸素や血液が行き渡らない状態になります。
肥大型心筋症は徐々に心筋が肥大して行き、しばらくは何も症状の無いまま、つまり「無徴候性に」進行して行く場合が多いと考えられます。
心筋症は、健康診断などで見つかることもあれば、無症候性にかなり進行した時期になってから、うっ血性心不全や動脈血栓塞栓症、不整脈等の症状が現れる場合があります。
健康診断などで無症候性の心筋症が見つかった場合は、主に動脈血栓塞栓症を予防するための薬剤などを始める事に
一定の効果はあります。
しかし現在までの所、様々な薬が心筋症に対して使われて来ましたが、心筋症そのものの進行を遅らせる、または寿命を伸ばすような結果は得られていません。
このような現状の中、今年の1月に、某大手ペットフードメーカーより、
「猫の心臓病をサポートする」と言うドライタイプのキャットフードが発売されました。
(念の為のですが、利益相反はありません)
動物病院向けの広告に書かれているキャッチコピーは、
「肥大型心筋症の猫のために開発されたエビデンスに基づくはじめての療法食」となっています。
どのようなエビデンスかを簡単に説明すると、同フードメーカーの関係研究機関から、2020年に発表されている論文が基になっています。
過去の研究において、肥大型心筋症の猫には、インスリン様成長因子-1(IGF-1)とインスリン濃度が高い傾向がある事がわかっていました。
IGF-1やインスリンは、心筋肥大を促進します。また心筋肥大に影響する炎症を誘導します。
そこで、論文の実験では、インスリンの分泌を増やす炭水化物を減量してタンパク質を増量し、また炎症を抑制するEPAやDHAを増量した食事を与えた所、IGF-1や心筋症に関係するバイオマーカーが下がりました。さらに、心筋の厚さが減少する事も確認されました。
この実験から、とても有意義な結果が得られたと考えられます。
また現状として、有効な治療法が無い猫の心筋症に対しては、有用な論文と考えられます。
そこで、
「猫の心臓病をサポートするフード」のさらに詳しい情報と、ご購入をお考えの方は、 こちらから ➡️ ・・・
と、購入サイトをご紹介して終わりたい所ですが 、、、
商売下手で天邪鬼な私は、少々余計な事を考えてしまいます。
この実験は12ヶ月で終了しているため、この食事が実際に心筋症の長期的な進行度合いや寿命に、どれ程関係しているかは不明です。
このフードの根拠になっているIGF-1については、猫の糖尿病に関連しても重要な項目ですが、元々体の中で様々な働きをするものであることと、その挙動がどのように変化するかが良く分かってない部分があります。
従って、同様の実験をもう少し長期にわたって確認していく必要があります。
今回、このフードの実験で評価すべき点は、
(メーカーによるところの)高タンパク質で低炭水化物のフードを与えたら、バイオマーカーが下がり、心臓を構成する心筋の厚さが減少した結果が得られた、と言う点が挙げられます。
今までにこのような実験が無かったとすると、画期的と言えるかもしれません。
改めての確認ですが、この「猫の心臓病をサポートするフード」のいわゆる〝売り〟(メーカーが強調している特徴)は、
「高タンパク質で低炭水化物」と「EPA+DHAを配合」と言う事です。
どれ程、高タンパク質で低炭水化物なのか、同じメーカーの他のフードの成分と比較してみました。
おそらく、この「心臓病をサポートするフード」の組成に近いフードは、「糖尿病に対するフード」が近いかもしれないと考え、確認しました。
(余談ですが、この糖尿病用のフードもちょっと、考えてしまいます)
予想通り、心臓病をサポートするフードの方がほんの僅かにタンパク質が高く、炭水化物が低い割合でしたが、それ程大きくは変わりませんでした。
その他、EPAやDHAもほぼ同量でした。
ここで、
・・・・・このフードの組成を改めた考えた場合・・・・、率直に言えば、それ程特別でもないのかなー・・・と、考えてしまいます。
猫の心筋症には、様々な要因が関わっていると考えられているため、「高タンパク質で低炭水化物」のフードであれば、必ず心筋症の改善が見込まれるとは言えません。(ちなみにメーカーも言ってはいません、念の為)
また、心筋症になる前から高タンパク質で低炭水化物のフードを食べていれば、心筋症にならないわけではありません。
・・・・・関連事項として、
以前のコラムの中で何度も触れていますが、
そもそも、猫の食事は「高タンパクで低炭水化物」が普通であるはずです。
(残念ながら現実はそうでない場合がほとんどと考えられます)
そうすると、この「心臓病をサポートするフード」の実験の意味や意義は・・・・・
っと、少々別の事?を考えてしまいます。
この「猫の心臓病をサポートするフード」が発売されて良かった??(かもしれない)事は、
改めて猫の食事の重要性を確認し、このコラムを読まれている皆様にお知らせ出来たことかもしれません。
(メーカーさん、ごめんなさい)
猫の食事に関連したことを確認されてない方は、願わくは、過去コラムをお読み頂けたらと。
(過去コラム:猫の食事、肥満、糖尿病、全てが関連しております)
ネットを見ていたら、よくある「おすすめキャットフードランキング」を見かけました。
その中でも、〝猫の肥大型心筋症におすすめのキャットフード〟なる謳い文句までありました。
今度機会を見て、実際の成分や組成を基に、キャットフードの選び方などお話できればと考えています。