重度合併症の糖尿病から回復し、インシュリンの離脱が出来た猫
プロフィールと既往歴
ロニーちゃん(仮名) 日本猫 13歳
7歳 歯槽膿漏 歯科処置 10歳 胃腸炎
既往歴ではないですが、生活の背景として
元々は年配の一人暮らしの女性とゆったりとした生活を送っていました。その後、事情によりしばらく一軒家で一人(一頭)だけで生活を送っていました。
10歳頃に小さな子供を含む家族との新しい生活を送ることになりました。
主訴
昨晩から横になって立てない、最近痩せて来ていた
診察にて
虚脱、横臥、意識混濁(体に力が入らず、横になったまま意識がもうろうとした状態)、脱水
診断
糖尿病性ケトアシドーシス
治療
糖尿病においてインスリンによる血糖の利用ができなくなると、脂肪や筋肉を代謝してエネルギーを捻出することになります。
この代謝によって発生するケトン体が身体に蓄積すると、糖尿病によって進行する脱水と相まって、体が極端な酸性状態に傾く「ケトアシドーシス」と言う命に関わる、非常に悪い状況に陥ります。
この状態を「糖尿病性ケトアシドーシス」と言います。
脱水症状には電解質やリンといったミネラルのバランスも悪くなるので、一番の原因である血糖値を下げると同時に、点滴による治療が必要です。
血糖値、電解質、リン、尿量などを経時的にモニターしながら、インスリンや点滴の種類、点滴に添加する電解質やリンの量を調節していきます。
高い血糖値を急激に下げる事は身体に負担になることがあるため、脱水やミネラルを補正しながら、インスリンの量を微調整していく必要があります。また、身体に蓄積したケトン体が身体から抜けて行くには時間がかかるため、動物も大変な時間を過ごさなければなりませんが、数日に渡る根気の必要な治療となります。
糖尿病性ケトアシドーシスは、ご家族が気付かないまま糖尿病の悪い影響が進んでしまった結果とも言える病態です。
病院にご来院した時点で、全身に渡る、回復が難しいダメージが及んでいる場合があります。
そのため、残念ながら死亡率の高い病態と言えます。
経過
数日間寝たきりが続きましたが、徐々に回復して、何とか退院することが出来ました。
しかし、糖尿病がこの時点で「治った」訳では無いため、自宅でのご家族によるインスリンの注射の継続と、数日毎の通院による血糖値のモニタリングが必要となります。
同時に、非常に重要なのが「食事」です。
糖尿病には様々な要因が関わっていますが、中でも大きく関わっているのが、食事(と水分)です。
幸いにも、「適したウエットフード」をよく食べてくれたので、それまでお家で当たり前のように食べてきたドライフードやドライタイプのおやつ類を一切止めて頂き、ウエットフードのみを継続しました。
糖尿病に関わる要因の中で、「環境から受けるストレス」も影響するため、退院と同時に生活環境を大幅に見直していただきました。
退院後の経過について
退院後、自宅でインスリンの注射をしながら、日々の飲水量や尿量、尿検査用紙による尿糖やケトン体のチェックを継続して頂きました。
定期的な病院での血糖のモニタリングの中で、インスリンの必要量が徐々に少なくなり、インスリンの注射を休薬出来る状態になりました。(インスリンの注射が必要無くなる状態を、インスリン療法からの離脱、糖尿病が寛解した、と表現することがあります)
一旦インスリンから離脱出来た場合も糖尿病が再発することもあるため、適切な食事を継続するとともに、生活環境に気をつけならがら、定期検診を続けています。
ご家族のお話では、具合が悪くなる以前よりも元気な感じがするとのことでした。
猫の糖尿病では、人や犬の様に始めから膵臓にダメージが起きてインスリンが不足する、いわゆる1型の糖尿病はほとんど発生しないと考えられています。
猫は本来、血糖値を下げることが人や犬よりも苦手な動物であるために、インスリンが追いつかない、または肥満などによってインスリンの反応が鈍くなることが、高血糖の持続に繋がり、これらのことが更にインスリンが不足する、反応が鈍くなるという悪循環となり、結果として糖尿病に陥ってしまうと考えられます。
実際には、糖尿病になってからの時間や複雑な病態が関係することがあるため、それぞれの猫を継続的に注意深く診ていく必要があります。
糖尿病に関係するコラムを過去に掲載しているので、そちらを合わせてご参照下さい