高齢猫の認知症(高齢性認知機能不全)について〜快適な生活のために ②
前回のコラムの続きです。
前回お話ししたように、
老齢期の猫にとって、より快適な生活環境で過ごす事が、身体の不調を改善したり緩和することに
とても重要です。
猫にとっての「快適な環境」の為に、どのような点に気を付けた方が良いか、
少し具体的に確認してみましょう。
1 安全で安心できる場所
猫は元々よく寝る動物ですが、高齢期にはより活動性が少なくなり、静かに過ごす時間が必要です。
特に、誰にも干渉されず猫が安心して休める場所が必要です。行動範囲や状況に応じて、何カ所かあると良いでしょう。
寒さや暑さに弱いので、安心できる場所と冷暖房の調節に工夫が必要です。
同居猫や同居犬との関係性も見直し、高齢猫の生活にできる限り影響が無い様にしましょう。
新たに仔猫や若い猫を家に迎える場合、高齢猫にとってはストレスになる可能性が高いため、状況によっては住み分けが出来るように考えておきましょう。
2 猫にとって重要な必要物資を複数用意し、環境内に複数箇所、それぞれ場所を離して設置
「重要な必要物資」とは、食事、水、トイレ、爪とぎ、休息の場所 を指します。
食事そのものの見直しなども重要ですが、猫が食事を食べる時に安心してストレス無く食べられているか?
確認して下さい。
食事の場所や同居動物との関係、人との関係などが影響している場合があります。
水は若い猫でもとても重要ですが、水入れや置いてある場所、水入れの個数、与え方などを見直しましょう。
爪とぎは自分のにおいを付ける意味合いもあります。古くなっても猫が気に入っていたり、新しい爪とぎを好まない場合も有るため、取り替えの時は注意しましょう。爪とぎの置き場所も複数箇所ある事が望ましいです。
トイレの場所、形状、砂の種類、お掃除の仕方や頻度、などを今一度見直してみましょう。
特に行動範囲の狭くなっている高齢猫にとって、トイレの場所やトイレの入りやすさ(高さや形状等)を確認する事が必要です。
3 遊びや捕食行動の機会を与える
ほとんどの高齢猫では、若い頃の様に遊ぶ事は少なくなったと思います。
高齢猫の年齢や身体の状況にもよりますが、おもちゃを工夫して与えて見ると、意外と遊ぶ猫も少なくないようです。飛びつくようなおもちゃよりも、ペットボトルを転がしたり、段ボールパズルからドライフードが出てくる様なおもちゃが適していると思います。
脳の働きや身体にも適度な刺激を与える事になります。
ただし、どれも興味を引かない猫を無理に遊ばせる必要はありません。
高齢猫は突発的な変化に適応しづらくなっているため、猫を驚かせる様な遊び方は避けましょう。
4 好意的かつ一貫性のある予測可能な、人と猫の社会的関係を構築
些か堅苦しい言い回しですが、「猫のペースに合わせた接し方を心がける事が重要」と言うことです。
高齢猫は変化を好まないので、毎日の生活パターンをなるべく変えない事が必要です。
人の生活サイクルが変わったり子供など新しい家族が増えたときには、猫の生活にできる限り変化が無い様に考えて下さい。
また、猫と一緒に生活していれば、猫を「なでなで」したり、猫に「すりすり」したいと思いますよね。
しかし、元々触られる事を好まない猫は多少慣れても、猫にとってはやはり嫌なようです。
触ろうとすると直ぐ逃げる猫が家の人の近くで静かにしている時は、「猫なりに」コミュニケーションを
とっています。そのため、触られる事を好まない猫はなるべくそっとしておく方が良いでしょう。
触って欲しい猫には身体を適度に撫でてあげることでリラックス出来ると思います。
5 猫の嗅覚の重要性を尊重した環境
猫は元来、人が思っている以上に「におい」に敏感です。
高齢期の猫にとっては、環境中の「におい」の変化がより気になってしまうかもしれません。
人が日常的に使うもの(洗濯洗剤、柔軟剤、化粧品、芳香剤、消臭剤等)によって、それまで猫が過ごして来た環境に無かった「におい」や、猫にとって好ましくない「におい」が生じると、大きなストレスとなることがあります。
普段何気なく使っている家の人の使うものでも、出来るだけにおいを抑えたものが望ましいと考えられます。
一方、猫が壁や家具の角へ身体を擦りつける行動をしている時は、猫が自分自身への「安心できるにおい」を印としてわざと壁や家具に付けている事があります。
この壁や家具に付けた印は、今まで猫が生活してきた環境の中でとても重要で必要なものとなっています。
その為、猫が身体を擦りつける事で壁や家具が汚れてきても、出来るだけ拭き取ったり、特に洗浄消毒剤などをかけたりしないように注意して下さい。
かなり大まかな説明になってしまいましたが、以上の事を参考に、改めて高齢猫の生活環境や人との関わりを
この機会に見直してみましょう。
前回のコラムで示したように、「もう、年だから、こんなものかな」と、今までと変わらない生活をしている様に見えるかもしれません。
しかし、よく見てみたら年のせいと言うだけでは無く、身体に何かしら異常があるかも知れません。
まずは十分に確認される事をお勧めします。
その上で、生活環境の見直しと言う事になるのですが、生活環境については、家族の方があまり関係ないと考えていることや重要ではないと思っていることが、実は大きく関わっていることが少なくありません。
その為、現在の生活の状況を出来るだけ詳しくお伺いして、それぞの生活環境や猫の性質に合わせた個々の改善点や変更点を考えて行く必要があります。
また、特に高齢性認知機能不全の症状(徘徊、粗相、鳴き行動等)が強くなってきた場合、いわゆる「介護」の方法も含めて、それぞれの猫やご家族の生活の状況にあった対応をする必要があります。
その他、高齢性認知機能不全の症状を劇的に改善できるわけではありませんが、不安傾向の強い猫に対して、比較的緩和効果が見られるサプリメントを活用する方法もあります。
老齢期のねこちゃんの快適な生活の為に、今一度、身体と生活環境を見直して頂くことをお勧めします。