獣医師おすすめの?「ペット保険」について
以前、ご来院頂いているご家族から、「動物にも人と同じ健康保険があると良いですね」と言うお話がありました。
かつて、日本の国民皆保険制度は世界的にも優れていると言われていましたが、近年の高齢化の増加と急速な少子化により、実質的に税金である保険料の引き上げを重ねて行く事によって、何とかその制度を維持していると言うのが現状です。
(加えて医療制度や医療にまつわる構造的な諸問題が指摘されていますが・・・ 実際はこちらの問題が大きく・・・多くは語りませんが・・・)
御存知の通り、動物には税制も無いため、人と同じような公の保険制度はありません。
動物の医療保険を意味する「ペット保険」は、民間会社が販売する人の「医療保険」や「ガン保険」「傷害保険」等と同じものです。
人の医療保険やガン保険は多くの商品がありますが、保険を選ぶ方の年齢やニーズ等は様々であり、それぞれの方に合った保険の種類が決まってくると思います。
いわゆる「ペット保険」も人の任意保険と同じものだと考えると、数多くの商品の中でどんな動物にも「この商品がおすすめ!」と言う商品は、残念ながらありません。
・・・ これでは、以前のコラムの記事と変わりないので、少々補足いたします。
重要! : 保険を選ぶ上で確認して頂きたいこと
まずは、一緒に生活している動物の種類、品種等によって、どんな病気が多いのかを調べることが重要です。
◯ 犬、猫、兎、小動物、鳥、哺乳類や鳥以外の動物、また犬種や猫種等、それぞれの動物の種類や品種によって、発生しやすいと考えられる病気があります。
(但し、飼育頭数が多い種類においては、実際の病気の発生のしやすさよりも統計上多く見積もられる傾向があります。)
特定の犬種や猫種によっては、遺伝的に病気の素因を血液検査などで調べる事ができる場合があります。(検査については別コラムが必要になるボリュームである為、本稿では検査の詳細を割愛します。お近くの動物病院へご相談下さい。)
動物の種類や品種による病気の素因を知ることは、将来的な病気の可能性を考えて保険に加入すべきかどうか、どのような商品が適当なのか(加入可能なのか)等を考える上で、重要な情報となります。
◯ 病気の種類によっては、動物種と病気の発生時期に多少の傾向が見られる場合があります。
例えば、
・ 犬のアレルギー性の皮膚炎(詳細な原因分けは省きます)は、若い年齢から認められる傾向があります。
また、犬種により、アレルギーが起きやすい傾向が異なります。
ここで注意して頂きたい事は、アレルギーなどの体質に関係した病気は一時的な治療での完治が難しく、場合によっては生涯を通じた治療が必要になることがあります。
つまり、保険加入前にアレルギー性皮膚炎で通院した病歴がある場合、その後保険に加入した場合の免責事項として、「アレルギー性皮膚炎は保険対象外」となってしまうことがあります。
・ また、心臓疾患は通常老齢期に多い病気ですが、若い時は病気が少ないから病気の発生の多い老齢期に保険への加入を考えていたら、年齢制限がかかったり、保険料率が高くなってしまったりすることもあります。
それでは、全ての動物で、常に備えとして若い年齢からの保険の加入がお勧めか?と言えば、・・・単純にそうとは言えません。
まずは上記で示したように、動物の種類とその動物で発症しやすい病気などを調べることが重要です。
動物種による病気の発生率や傾向については、いくつかの保険会社で統計データ−が公表されているので参考にして下さい。
ご自分の動物に比較的発症し易い病気があれば、(後述する)その病気での治療にどれ位の治療費が掛かりそうかを前もって考える事は、保険に加入するかどうかを検討する為の参考になると思います。
◯ ご自分の動物が、もし病気になった時に、どのような病気(特に発症しやすい病気)で、概ねどれくらいの費用が掛かる可能性があるかと言うことも確認しましょう。
動物の種類や大きさ(例えば小型犬と大型犬等)によっても費用が変わってきます。
◯ 加入を考える保険商品もしくは現在加入中の保険商品について特に次の点を確認しましょう。
保険負担割合が幾らになるのか?
年間の使用回数や限度額は?
同じ保険に継続加入していた場合の、年齢による保険料の増額割合や金額は?
入院時の保険負担額の上限額や日数は?
手術時の保険負担額の上限額や回数は?
また、動物病院では、国内入手困難な海外薬や、治療を目的としても分類上国内の薬剤としては扱われない製品などを使う場合があります。
これらの製品についてはほとんどの保険商品では、保険の適用外となる事があります。
以上の事をよく確認しないまま保険に加入していた場合、実際に病気になった時の保険が、考えていたものとは違っていたと言うことが珍しくないようです。
例えば
・ 若いときからずっと保険に加入していて、幸いにも何事もなく過ごしてきた子が、老齢期を迎えて保険の更新をしようと思ったら、それまでの保険料よりもかなり割増になってしまい、保険の継続を迷われるという場合もあります。
・ 大きな病気になり、高度医療センターで高額の医療費がかかったときに、保険適用額の1日の上限額や手術の上限額が、考えていた金額よりかなり低額だったと言う場合があります。
大前提として、民間会社が販売している商品であるため、どんなに「お得!」と宣伝されていても保険会社の収益になるものです。
つまり、全てが「万が一に備える」ための掛け捨てであることと、掛け金を大幅に上回る保険金が下りるとは限らないと言うことを確認してください。
病気への備えとしての他の考え方として、
保険に入る代わりに、考えている保険料よりも少し割増してお金を積み立てて行く、と言う考えもあります。
動物病院へ、避妊去勢手術や予防(ワクチンやフィラリア、ノミ・ダニ等)以外、行くことがなかった、ずっと元気だった動物も、老齢期に病気になるという事もあります。
保険の話を通じて、皆様に今一度確認して頂きたい事は、〝できる限り病気にならないための生活を送る〟ことが重要です。
「できる限り病気にならない生活」と言われても、かなり漠然としているように思われるかもしれません。
しかし普段の生活を一つ一つ見直して頂くだけで、生活環境や生活習慣が病気と関係していることが分かるかもしれません。
特に猫に関しては、外傷や感染症、特別な遺伝的な疾患以外は、普段の生活を見直して頂くことで、多くの病気のリスクを下げることになります。
保険会社の出している統計データをご覧になったり、ネットで検索した場合、「猫は腎臓病が多い、腎臓病になりやすい」と言われているかもしれません。
これははたして本当でしょうか? 確かに猫は腎臓の構造や機能の面で、他の動物との違いによって、腎臓病のリスクが高くなる事はあります。
しかし、家庭で生活している多くの猫の生活環境を鑑みた場合、腎臓病のリスクを下げるための改善点がいくつか考えられます
犬を考えた場合も、普段の生活習慣や食生活を見直すことで同様な事が考えられます。
現在、何事もなく元気に生活している場合でも、普段の生活環境や生活習慣を見直して頂くことをお勧めします。
かかりつけやお近くの動物病院にご相談下さい。