猫の「毛玉ケア」について、改めて考えて見る ぱーと2
前回のパート1では、「吐く毛玉」が出来る原因と、できるだけ毛玉を減らすために考えていただきたい事について、お話しました。
このコラムでは、ネットで上げられている「猫草」や「毛玉ケアフード」、「毛玉ケアサプリメント」等の〝毛玉対策〟について、確認してみましょう。
1)「猫草」について
〜 いわゆる「猫草」を食べさせることは、毛玉対策に有効か?
ネット情報を見てみると、ほぼ〝有効〟か、むしろ毛玉対策には、積極的に猫草を食べさせることを推奨する記載も見られます。
「だったら、それで良いじゃない?」と思えば簡単に済む話ですが、私は少々天邪鬼であることと、折角このコラムを読んで頂いている皆様に申し訳ないので、もう少し考えてみましょう。
そもそも、猫に「草」を食べさせる必要があるのか?
猫が草を食べるのは自然な事なのか?
・・・これらについて調べてみると、決定的な決まった答えは無いようです。
教科書的な見解としては、「諸説あるが・・・」と言う前フリの後に、猫の自然の行動の中に「草を食べる」事はあり、毛玉の嘔吐や排泄にも有効だろうとされています。
一方、同じ記載の中で、自然の猫の中には自ら選んで好んだ草を食べているが、嘔吐しないと言う事もあります。また消化器の問題以外に、栄養に関係する事や嗜好的に草を食べているだけではないか、と言う理由も見られます。
ここで、野生の猫や猫科の動物の本来の食性から考えてみましょう。
野生の猫や猫科動物が獲物を捉えた場合、原則として捕食される動物の腸内にある植物性の消化物等は食べません。
因みに、オオカミなどの肉食動物であるイヌ科の動物の多くは、雑食性である面も多少あるため、植物性の消化物を含んだ内臓から食べることが多いようです。これは、イヌ科の動物は、捕食動物が食べた植物に含まれる炭水化物の味を好む傾向があるためと考えられています。
対して、完全肉食動物とされている猫科の動物は、植物由来の風味に興味を示さず、特に植物に含まれる〝苦み〟に敏感であり、嫌うと考えられています。
このようなことから、猫が草を食べる理由の諸説の中で、「本能的」とか、「栄養を補うために」などは当てはまらないのではないかと考えられます。
それでは、野生の猫科の動物には「毛玉を吐く」行動は無いのか?と言う事を少し考えてみましょう。
例えば、実際に野生のライオンが草を食べて毛玉を吐いている事が観察されています。
ただし、猫科の動物は捕食した動物の被毛や羽などを吐くことがあるため、これが家庭の猫で見られる、いわゆる〝毛玉を吐く〟事と同じものかは不明です。
猫が草を食べる意義として考えられている事は、消化できない草を食べることで胃に刺激を与え、胃内の毛玉を吐き戻すことと、食物繊維によって、毛玉を便として排泄させるものであると考えられています。
同様なことから、もし猫科の動物は元来草を食べないとすれば、食物繊維(ここでは植物由来の難消化性炭水化物)を取れないじゃないか? 消化管の働きのためには食物繊維が必要ではないか? やっぱり猫科の動物は草を必要とするのではないか? と疑問が湧きます。
この疑問に対しての直接の答えにはならないかもしれませんが、猫科の動物にとっては、捕食した動物の被毛、羽、骨や軟骨等が、動物性の「繊維質」としての働きを持っていると考えられています。
チーターの観察研究で、牛肉の塊にマルチビタミン剤を仕込んだものを食餌として与えた場合に比べて、被毛や骨などを含む本来食べるはずの全体食〈うさぎ丸ごと〉を与えるた場合の方が、便の状態や血液検査に良い結果が認められました。(このチーターが毛玉を吐いていたかは不明ですが)
動物園によっては、猫科の大型動物に「猫草」を食べさせる事で、毛玉対策?をしていると言う事もあるようです。
ただ、猫草の是非はともかくとして、その動物の身体全体のことを考えた場合、チーターの例から、〝動物種に合った本来の食事〟を与えることが望ましいと考えられます。
ここまでで、結局の所、「猫草は有効か?必要か?」と言う結論的なことですが、
(・ 病的な原因が無いとして)
・ 猫のストレスを考えた環境の見直し
・ 食事の見直し
・ 排便排尿状態の確認
・ ブラッシングなどのお手入れの見直し
等を十分に考えて、それでも、〝猫草を食べていた方が調子が良い〟と言う猫には、猫草は適しているのかもしれません。
2)毛玉ケアフードやおやつは、毛玉対策に有効か?
まず、「毛玉ケアフード」と、毛玉ケア等の表示の無い(特に毛玉の考慮の無い)キャットフードの違いを確認してみると、毛玉ケアフードには、「食物繊維」が増量されています。
この様なネーミングのついたキャットフードが作られた背景としては、「キャットフードの食物繊維を増量することで、毛玉誘発性の嘔吐の頻度を減少させる」と言う報告が、基になっていると考えられます。
実際には、毛玉ケアフードに変えてから毛玉を吐くことが減ったという場合もあれば、あまり変わらないと言う事もよく聞きます。
ここで、毛玉ケアフードで増量されている「食物繊維」について、少しだけ触れておきます。
食物繊維は、消化酵素で分解(消化)されるデンプンなどの炭水化物とは異なった、大腸の微生物の発酵(必ずしも全てが分解されない)を受ける複合炭水化物(一部炭水化物ではない繊維質含む)です。
詳細な説明は省きますが、一般的に、適切で適当量の食物繊維は、便の嵩や形を適度に保ち便通を良好にします。また、食物繊維は腸内細菌により発酵分解される(プレバイオティクスとしての働き)ことで腸内環境を良好に保つ役割を持っています。
食物繊維には不溶性繊維と水溶性繊維とする分類がありますが、それぞれの役割があり、良好な便を形成し、便通を保つためには適度なバランスが必要です。
完全肉食動物である猫にとっては、本来食物繊維を含む炭水化物の利用能力が低く、栄養的にほとんど必要としないと考えられています。本来の食事に含まれる食物繊維は1%以下です。
一方、「キャットフード」(特にドライタイプ)には適度な食物繊維が含まれている必要があり、食物繊維は消化管の機能を促進させ、便の状態を良好にするとされています。栄養学的に、通常のキャットフードに対する食物繊維の推奨量は5%以下とされています。
通常のキャットフードに対して毛玉ケアフードに含まれる食物繊維は、5−10%位となっています。
ペットフードメーカの試行錯誤の結果として、毛玉ケアフードには5−10%位の食物繊維が必要と決まったのでしょうが、食物繊維が水溶性であるか不溶性であるか、食物繊維の原材料は何であるかなどを含め、それぞれの猫にとって、本当に適切かどうかを考える必要があります。
一般的にペットフードで使われている食物繊維の多くは、不溶性繊維である粗繊維が多く使われているようですが、毛玉対策や肥満対策として作られているキャットフードにも、不溶性繊維が高い割合で使われています。
前置きが長くなりましたが、毛玉ケアフードは毛玉対策に有効か?必要か?と言うことですが、
猫草同様に、他の様々な要件を見直し、かつ、実際に与えてみた場合に、毛玉ケアフードに効果が見られる場合は、その猫にとっては適しているかもしれません。
・・・。
(ここで終わりにしたい所ですが、・・・、)
しかし、毛玉ケアフードや体重管理フードの様に不溶性繊維の割合が高い場合、便が乾燥気味で固くなる傾向があります。(この便が良い便と思われている場合も少なくありません)
実際に食べさせていて、毛玉に対する効果がはっきりしないまま何となく続けていることで、ご家族が知らないうちに、便秘傾向を助長させていることがあります。
よく見られるパターンとして、
毛玉対策兼体重管理や減量用のキャットフードを与えられていても、
ぽっちゃりした体型が中々変わらない(むしろ肥る?)
便は1日1回位(たまに、便をしない日もあるかも)
・・・。この様な猫には、特に、お勧めしません。
ぽっちゃりとはしてなく、むしろスリムな体型、特にシニア期になって便が硬目になってきた猫も、お勧めしません。
お早めにかかりつけの動物病院へご相談下さい。
3)薬やサプリメントの効果について
毛玉対策の薬(医薬部外品)やサプリメントとしては、ワセリンなどが基剤となっている潤滑剤や、毛玉の溶解を期待したパパイン等が配合されたサプリメントが市販されています。
いずれも、教科書的に明確な効果は認められていません。
注意が必要なのは、毛玉対策と考えてただ漫然と使い続けていると、場合により、正常な消化機能と栄養の吸収に問題が生じる可能性があります。
今回のコラムの主題とは異なりますが、「毛玉ケア」について色々と考えていくと、猫の生活全般に関係していることが分かります。
今回のコラムではあえてほとんど触れませんでしたが、ぱーと1で示したような生活環境全般の見直しの他、食事の話、トイレの話、便秘の話、肥満の話、など、全てが個別の事柄ではなく、猫の生活や健康にリンクするように関係しています。
それぞれを過去のコラムに掲載しておりますので、お時間の許す限りお読みいただけたら幸いです。