猫の便のおはなし 〜 改めて確認したい事
お家のねこちゃんについて、質問です。
・猫が1日に何回、1回にどれ位の便をしているかを、お家の方が詳しく分からない事がありますか?
・2頭以上の猫が居る場合、それぞれの猫が1日に何回、1回にどれ位の便をしているか、十分に確認出来ないことがありますか?
・便をしない日がありますか?
・1回の便で、2−3㎝以下の長さが続くことはありますか?
・1回の便の量が、日によって少なかったり多かったりすることがよくありますか?
・便が乾いた感じや、硬い感じはありますか?
・今まで、形のある便に、血液が付いていたことはありますか?
・猫のトイレ以外の場所で、便や尿をする事がありますか?
・猫のトイレに排泄する場合でも、便や尿がトイレからズレてしまっていることはありますか?
・猫がトイレをしている最中に、声を出すことがありますか?
・猫がトイレに入る前や入った後に、走り回ったりすることがありますか?
・お腹や内股の毛が薄くなっていませんか?
・今まで便の事で気になった事は無くても、尿の事で受診されたことはありますか?
以上の質問の中で、1つでも当てはまることがあれば要注意です。
「毎日ご飯もよく食べて、元気にしてるし、具合が悪そうでもないし、これで何が要注意なの?」と、
思われるかもしれません。
お家の人が排便に問題が無いと思っていても、上記の質問に当てはまる事がある場合、
既に便秘の傾向があるか、将来、便秘になる可能性が高いと考えられます。
「でも、それなりに便をしているのに、便秘と言われても、、、??」
と、ほとんどの方があまりピンと来ないと思います。
そもそも「便秘」とはどういう状態かを、少し確認してみましょう。
ちなみに人の場合、日本消化器病学会関連研究会のガイドラインでは、
「便秘」とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排泄できない状態」となっていますが、
、、、かなり曖昧な表現となっています。
実際には、個々の患者さんの様々な症状を合わせて「便秘」が考えられています。
猫の場合、ある教科書では「排便の欠如、過少または困難と定義される」となっていますが、
どこからが「便秘」なのか、明確な基準はありません。
、、、お家の方には、便秘という状況が今ひとつ分かりづらいかもしれません。
猫の便秘を、その原因とされる事柄から考えて見ましょう。
猫の便秘は、教科書的に大きく次の2つに分類されます。
①: 様々な身体的な病的要因(骨盤の変形等、消化管内の狭窄等、肛門脇の問題、神経疾患、代謝性等)に関連して、十分に排便が出来ない場合
②: ①に当てはまる様な病的な問題が見当たらないが、原因がはっきりしないまま、十分に排便できない場合(教科書的に特発性と言われる)
文献によれば、②の、原因のはっきりしないもの(特発性)が60−70%と言われています。
実際に当院でも、①に該当する腎不全や高齢の猫を除いては、ほとんど②と考えられる場合が多いです。
それでは、②について、本当に原因が見当たらないのでしょうか?
原因が無く、酷い便秘になってしまうのでしょうか?
猫の行動をよく考えた場合、便秘に繋がる重要な要因として、「トイレや生活環境の問題」が考えられます。
つまり、猫がトイレをスムーズに使う事が出来ず、排泄を我慢してしまい、これを日常的に繰り返しているうちに、それが結果的に排便回数や排便量の減少に影響すると考えられます。
従来の消化器病の教科書等には原因として明確に示されていませんでしたが、近年の文献などでは、以前よりもトイレや環境的な問題の影響が指摘されています。
ここで、お家の方にご理解頂きたい事は、
人の便秘の場合、本人が自覚症状を持って病院へ受診したり相談したりすることが出来ますが、
猫の場合、人に比べて「便秘」の状況が、より分かりづらいと考えられます。
例えば、オシッコは出なくなったら直ぐに具合が悪くなる事が多いですが、便は数日間出なかったとしても、直ぐに具合が悪くなる事が少ないからです。
また、実際に便が1日に少量しか出なくても、また1−2日間出なくても、ある程度排便できていれば、当面は特に問題無く生活している場合が多いと考えられます。
つまり、猫が便秘もしくは便秘に近い状況になっていることを、お家の方が気づきにくいと言う事です。
そのため、便秘の状況が悪化して、
「トイレに入っているのに、便が出せてないみたい」 「凄く頑張っても、少量の便しか出てないみたい」
等で受診された時には、既にかなり深刻な便秘状態になっていることが、珍しくありません。
どれ位深刻かと言えば、猫が自力で排便することがほぼ出来なくなってしまっているために、病院で肛門から指を使って便を取り出すことが必要になります。
しかも、たまたまこの時だけ便が出づらくなってしまったわけでは無く、長年に渡り便が常に腸に残る事により、その量が徐々に増えていき、排便間隔も長くなり、結果的に大量の便が腸に溜まってしまったと考えられます。
この場合、溜まった便で腸が常に広がって緩んでしまっているために、病院で便を取り出した後も、便が溜まり易く自力で排便することが難しくなります。
一度、自力での排便が難しい状況にまで悪化すると、ほとんどの場合、その後も定期的に便を取り出す必要が出てきます。
便秘を少しでも改善するために、お薬を使ったり、食事を変更する事も必要ですが、それでこの深刻な便秘症から解放されるかと言えば、、、難しい場合が多いです。
この問題の最大の対策は、「予防」しかありません。
そのためには、何度も言って申し訳ありませんが、「トイレと生活環境の見直し」です。
「トイレの問題」については、過去のコラム「皆さんにもっと知って欲しい猫のトイレ事情」を
ご参照下さい。
生活環境の様々なストレスも、「便秘」に対して少なからず影響している事も考えられるため、
「猫が快適に生活を送るために」のコラムもご参考にして下さい。
他に「便秘」に影響する事柄として、
原因②で見られる便秘の猫の多くは、「肥りすぎ」もしくは肥っている傾向にあります。
猫を肥満にしない事も、便秘に関わる重要な要素と考えられます。
「肥満なら、ダイエットフード」とだけ考えてしまうと、痩せないばかりか、
便秘も悪化する場合があります。
また、日頃の食事内容は「便秘」に関係しますが、その他の様々な事柄にも影響します。
食事に関しても、過去のコラム「本当に猫の事を考えた食事について」をご参照下さい。
このコラムをご覧になって頂いた方に、心からのお願いです。
猫は自分では言えません。「最近、なんだか、便秘気味でして、、、、」なんて。
どうか、猫の排便状態を今一度見直してあげて下さい。
どうか、猫のトイレと生活環境を今一度見直してあげて下さい。
そのためには、出来れば、お近くの動物病院にご相談して頂く事が良いと思います。
現在の世の中の情勢では、病院へもなかなか行きづらい事もあるかもしれません。
当院では、オンライン診療・相談(https://mirpet.co.jp/owner)にて、
普段の生活の事などのご相談も承っています。
ご参考まで。
オンライン診療をご希望される場合、sakuraahp6@gmail.comまで、メールをお願いします。