“飼育崩壊” って、特別な事ですか?
「飼育崩壊」は、特殊な事例では無いかも・・・
いわゆる、「飼育崩壊」と言われるものは、動物が増えすぎて十分な世話が出来なくなっている状況を指します。
手前味噌ですが、埼玉県獣医師会のHPのトピックス(2020/5/21)で、飼育崩壊について書かせて頂いております。ご参照下さい。 http://www.saitama-vma.org
飼育崩壊は、どんどん増えた動物の数の為に起こるように思われています。一般的にはそのような事例が社会的にも注目を集めることがありますが、実は、1−2頭の動物でも、十分な環境の提供が出来ていなかったり、世話が行き届いていないと言う場合も、飼育崩壊と言えると考えられます。
実際の事例 1
猫(チンチラ) 雄 3歳
病状
過去に膀胱炎(尿結石症)となり、指定された療法食を続けているが、直らないとの事で、当院へ受診された。来院時、毛玉が多く、体臭(尿の臭いに近い)が強かった。
生活環境:ご家族 男性一人。 ワンルームに近い住まい。
仕事の関係上、早朝に出かけ夜間に帰宅という生活。
食事、お水、最低限1日1回取り替え、トイレは“多くて”1日1回取り除く程度 との事。
休みの日に、多少、猫の相手は出来るが、日常的には余り時間が取れない。
おそらく、同じような生活環境(ご家族一人、ワンルームに近い住まい)はあり得るかと思いますが、この事例では、一緒に生活しているとは言うものの、特に猫で重要なトイレの世話がほとんど出来て無く、日常的なコミュニケーションもほとんど出来てない様子でした。
猫が何頭もいる、よく言われる飼育崩壊の様な状況では勿論ありませんが、「動物の福祉=5つの自由の必要」から考えると、既に飼育崩壊の状況とも言えます。
当院へ受診された理由が、膀胱炎が治らない事だったのですが、これも根本的には生活環境が原因と考えられました。
ご家族と相談した結果、男性のご実家で猫を引き取ってもらい、膀胱炎も改善されました。
事例 2
チワワ 雄 5歳
病状
角膜損傷。
今回が初めてでは無く、過去に何度が同じ事があったが、今回が一番酷いとの事で、当院へ受診。
生活環境:ご夫婦、小学生、一戸建て。
同居動物:ダックス 雌 6歳、チワワ 雄 4歳
家の中にある程度広さに余裕があるので、そこで遊んでいることが多い。
散歩は多くて、週に2−3回。3頭一緒に行くと、それぞれがお家の方の言う事を余り聞いてくれず、行くのが結構大変であるとの事。
来院時、他の犬も一緒に来院しているが、それぞれがお家の方へ抱っこされないとやや落ち着きが無かった。
角膜の損傷は、状況から4歳のチワワと喧嘩をした際に出来たよう。
今までも同じ事が原因で何度か眼を傷つけている。
他にも生活全般の様子をお伺いした所、3頭の犬に対してのご家族のリーダーシップや生活の中でのルール作りが曖昧である事が考えられました。
また散歩が不十分な事から、精神的な発散なども不十分で、生活全般において、それぞれの犬が常にイライラしたようなストレスのある状況が考えられました。
角膜の損傷はかなり酷かったが、治療により改善しました。
ただし、同様の生活環境では同じ事を繰り返すことになり、眼球を失ってしまいかねないことをご家族にお話ししました。
また、お家の方と犬達との関係作りについて、今後見直して、出来る事をやっていく様にしました。
一つの家族で犬が2−3頭、と言うのは一般的に普通にある事で、これの何が“飼育崩壊”なのか?と、多くの方は考えられると思います。
しかし、ご家族の気づかれてない所で犬達は、常にストレスを感じています。
眼を痛めている子は今後も喧嘩を強いられて行くのか? と考えれば、このような場合でも動物福祉の観点から、生活環境は不十分と考えられます。
このように、2つの事例を考えて頂いたときに、現在の何も問題が無く当たり前だと思われている動物の生活環境が、実は、改善の必要があるかもしれません。
現在の生活環境を見直す為に、かかりつけの動物病院へご相談される事をお勧めします。
一般的に考えられているよりも、動物の「気持ち」が、様々な体調の変化や病気に関係していることを、今後のコラムでもお話しできればと考えています。
特に、「猫のパ○ド○の箱」などについて。