猫の困った行動 〜爪とぎについて
唐突ですが、猫は何で「爪をとぐ」のでしょうか?
猫は元来、単独で狩りをして獲物を捕らえたり、外敵から身を守る為に木に登ったりします。
そのために、「爪」は欠かせない、生きるための装備と言えます。この生きるために欠かせない「爪」は、その目的のためには、常に鋭く尖っている必要があります。
猫が爪とぎ行動をすると、爪の一番外側の古くなった角質の最外層が剥がれて、下の爪の新しい層が出て来ることで、鋭くとがった形が保たれています。
猫が爪をとぐ事は、生きるための大切な装備のお手入れをしている、と言う事です。
猫が爪をとぐ事には、他にもいくつか理由が有ります。
・ 何か適当なモノを引っ掻いて、視覚的な傷を残す事や、同時に指の間から出るフェロモンをその場所に付ける事、つまりマーキングの意味があります。
・ また、単に前足を伸ばす(ストレッチ)ために、爪をとぐ動作をする事もあります。
・ あるいは、猫が何かストレスを感じたときに、その気持ちを発散したり気持ちを落ち着かせるために、爪をとぐこともあります。
・ 人にとって、爪をといで欲しくない物や場所で爪をといでいると、つい「やめなさい!」と、声を掛けてしまうことがあると思います。
これを繰り返していると、猫が「爪をといでいるといつも声を掛けられる → 爪をといでいるといつもかまってくれる」と、学習してしまった場合、お家の人の関心を引くために、(むしろして欲しくない所で)爪とぎをする、と言う事もあります。
このように、猫が「爪をとぐ」事は、本能的でいわば正常な行動です。
ただ、家の中で人と猫が一緒に生活していく上で、お家の方にとってはどうしても爪をといで欲しくない場所や物があることも、現実としてはあります。
また、お家の方が折角用意した「爪とぎ」を使わずに、他の場所や物で爪とぎをしてしまう場合もあると思います。
これらのことから、よくあるご相談として、
「爪とぎを止めさせたい。方法はありますか?」
「用意した爪とぎを使ってくれない、使うようにさせるには?」
と言う事があります。
これらの問題を解決するためには、次の事を確認する必要があります。
・ まず、本来お家の方は、猫に適当な爪をとぐための場所や物を提供する必要がありますが、爪をといでも良いとする、爪とぎの場所や物はありますか?
猫は正常な行動として、何処かで爪をとぐ事があるため、たまたまそこが爪とぎをして欲しくない場所や物である事があります。つまり、爪をといでも良い場所や物を用意する必要があります。
・ 一方、「爪とぎ」や「爪とぎの場所」を用意してはあるが、お家の方の意に反して、別のして欲しくない場所や物で爪とぎをしてしまう場合があります。
この場合、用意した「爪とぎ」や「爪とぎの場所」が気に入らない可能性が大きいため、改めてそれぞれの猫に適した爪とぎかどうかを確認する必要があります。
・ 爪とぎの形や大きさ等は?
爪とぎの大きさ、長さ、形状、また、平置き型か垂直型か、爪とぎが固定されているか、動いてしまうか、など、いくつかの条件によって猫の好みが変わってきます。
猫は爪をとぐ時に、前足を伸ばして行うことが多いため、猫が身体を十分に伸ばすことが出来る長さや高さのある物が望ましいでしょう。
また、爪をといでいる時に、爪とぎが動かない物が良いでしょう。
・ 爪とぎの材質、素材は?
一般に、猫の爪とぎとして市販されている物の素材として、麻や段ボール(紙)、カーペットやラグなどのタイプがあります。他に木や綿を素材とする物もあります。
どれが良いかは、それぞれの猫の好みの問題となりますが、改めて「爪とぎ」を用意する場合、実際に爪をといでいる物や、爪とぎをしている場所の素材に近いものが良いかもしれません。
・ 爪とぎのある場所は?
猫が爪をとぐ理由から考えた場合、猫が一日の中で比較的長く過ごす場所の近くと、たまに巡回に行く場所の途中、例えば廊下や出入り口付近など、いくつか爪とぎを用意することが望ましいと考えられます。
また、爪とぎをして欲しくない場所で、どうしても爪とぎをしてしまう場合、その場所を新たに用意した爪とぎでカバーする方法もあります。
それでも、どうしても、して欲しくない場所や物に爪とぎをしてしまう場合、次の様な対処をしたり、今一度確認をしてみましょう。
・ 可能であれば、爪とぎをして欲しくない物を、猫が触れない場所へ移動するか、猫が近づけない様にする。
・ 爪とぎをかえって助長している事は無いか確認する。
例えば、爪とぎをしている時に叱ったり、注意したり、何かしていないか?
爪とぎをしている時に何らかの声を掛けることで、かえって爪をとぐことになる場合があります。
・ 爪とぎをする前に、猫はどんな行動をしているか? また、猫の周りの環境(他の猫の行動や人の行動など)に変化は無いか?
つまり、何か(主に猫にとってストレスになるようなこと)をきっかけに爪とぎをしているかもしれません。何らかのストレスを紛らわす行動として、爪とぎをする場合があります。
状況によっては、爪とぎに関連する事以外に、普段の生活環境全般を見直したり、確認する必要があるため、改めて、動物病院へ相談される事をお勧めします。
爪とぎに関連したその他の事柄として、
お家の方が、「猫が爪をとがない様に、爪を切って欲しい」と、来院される事があります。
動物病院にはよくあることで、普通のことのように思われますが、実は正しくはありません。
爪切りに慣れていたり、多少の我慢で済んでくれる猫であれば、あまり問題では無いのかもしれません。
しかし、爪切りが苦手な猫に爪切りをすることが、かえってストレスとなり、爪とぎを助長する事に繋がることもあります。
ただ猫の爪を切るだけでは無く、お家の方が、どうして爪をとがないで欲しいのか、爪を切ることでそれは解決されるのかを、よくお話をお伺いする必要があります。
一方、むしろ爪切りをした方が望ましい場合もあります。
猫は高齢になると活動性が少なくなることや、潜在的な関節炎などによって、今までの様に爪をとがなくなる事があります。また、一見今までのように爪とぎをしていても、全ての爪を均一に遂げなくなることがあります。
このような場合、結果として爪が伸び過ぎて内側に巻いてしまい、お家の方が気づかないうちに、肉球に爪が食い込んで化膿したりすることがあります。
当然爪切りが必要になってきます。
また、スコティッシュホールドなどで多く見られる骨軟骨異形成症などでは、比較的若い年齢でも関節の変形などの問題から、同様な事が起こることがあるため、注意が必要です。
「爪とぎ」から、今一度、お家の猫ちゃんの生活環境を見直して見て下さい。