猫の肥満のお話し(実践編)〜 猫に合った減量のための食事の選び方
コラム
一般的に減量の為に必要な事は、
「1日に取り入れるエネルギー量を減らし、消費するエネルギー量を増やす」
と言う2点につきます。
つまり、「脂肪」と言う体に余分にため込んだ “エネルギーの貯蓄” を、体に必要なエネルギーの “赤字” を作り、切り崩して減らして行く事です。
しかし、人が意識的に運動を増やしたり、犬が散歩の時間や回数を増やす様には、猫では実際に消費するエネルギーを増やす事は難しい為、取り入れるエネルギーを減らす事が中心となります。
通常、減量を考える上で、少しでもあるいは出来るだけ効率良く「摂取エネルギーを減らす」事を考えると、
エネルギー量の多い栄養、つまり「脂肪を減らす方が良い」と言う事になります。
脂肪は、蛋白質や炭水化物の約2.45倍のエネルギーを持っています。これをカロリーと言うエネルギーの単位で言い換えると、脂肪は、蛋白質や炭水化物に比べて高カロリーと言うことになります。
そこで、一般的に多くの場合、減量の為には脂肪を少なくした「低脂肪食」や「低カロリー食」が良いとされています。
一方、エネルギー源には、蛋白質、脂質、炭水化物とありますが、それぞれのエネルギーの代謝の仕方に注目した減量法があります。
食事を食べた後に血糖値が上がります。この血糖値を下げるために “インシュリン” が分泌されます。
このインシュリンは、血糖値を下げると伴に「脂肪を蓄積する」為にも働きます。
食後の血糖値の上昇を出来るだけ抑えることでインシュリンの分泌が少なくなると、脂肪の蓄積が減り、逆にエネルギー源として脂肪が消費されるようになる事が分かっています。
(勿論、脂肪も過剰に摂取した場合、炭水化物よりも肥りやすいと言えます)
この事を考えた減量法が、「低炭水化物ダイエットや低糖質ダイエット」と呼ばれるものです。
ここで思い出して頂きたい事は、前回のコラムでお話しした「猫の肥満の仕組み」についてです。
猫は本来的に、食事中の炭水化物の割合が多い場合、血糖値が上がりやすく、結果的にそれが脂肪に置き換わり、肥満に繋がり易いという事です。
減量の為にエネルギー制限に主眼をおいた場合は、「低脂肪食」となります。
ただし、低脂肪食とされるキャットフードの栄養成分を確認すると、炭水化物の割合が高くなっているフードが少なくありません。これは特にドライフードで多く見られます。
減量の為に、頑張って低脂肪のダイエットフードを与えているのに思うように痩せられないと言う理由は、この炭水化物の割合が高い事が関係している可能性があります。
栄養学として、減量方法の目的別に 「減量の為に必要な栄養成分の構成」 を改めて確認してみましょう。
“エネルギー制限、低脂肪食” による減量をするために必要な栄養成分の割合は、
蛋白質 ≧35%、脂質 ≦10%、炭水化物 ≦35% とされています。
ここで、低脂肪ダイエットフードを選ぶ際の注意点は、
確かに脂肪を10%程度に抑えてあっても、蛋白質が低く、炭水化物が多い割合になっていないかを確認して下さい。
更に加えると、原材料をよく確認して下さい。
原材料のラベルには、原則的に使われている原材料の割合が多い順に記載されています。
蛋白質が35%以上であっても、 “コーングルテン” などの植物性の蛋白質原料(炭水化物も含まれます)が先頭に記載されているものも少なくありません。
また、例えば “トリ肉” が先頭に記載されていても、その後に植物原料が何種類も続いている場合もよく考える必要があります。
炭水化物の原材料についても、豆類や野菜が望ましいと思いますが、穀物類としては小麦や米に比べて、大麦やトウモロコシ、ソルガムの方が血糖値を上げづらいため望ましいと言えます。
“低炭水化物食” による減量をするために必要な栄養成分の割合は、
蛋白質 47〜57%、脂質 ≦25%、炭水化物 ≦20% とされています。
低炭水化物食のフードを選ぶ際の注意点は、
同様に、原材料ラベルの記載をよく確認することです。
蛋白質の割合が高くても、植物性原材料が多い場合は植物性の蛋白質が多くなるため、アミノ酸バランスを考慮する事に注意が必要です。
低炭水化物食のフードは、低脂肪のダイエットフードと比べて栄養成分の構成の特徴から、ドライフードでは形状の特性上、限界があり、比較的限られた製品になるかもしれません。
やや余談的ですが、
猫が本来自力で食べるはずの獲物(食事)を、ドライフードと同じ水分量に合わせて栄養成分を割り出すと、ネズミを食べた場合、
蛋白質 45%、脂質 25%、炭水化物 15.2% (Ca 2.8%、P2%、水分10%)となります。
これらの事を考えると、猫の身体に合った減量法は、低脂肪食よりも低炭水化物食が適当だと考えられます。
加えて言うならば、 “通常当たり前だと思って与えている一般的なドライフード” が、実は猫にとっては「高炭水化物食」になっていて、 “減量の為に特別と思っている食事、いわゆる低炭水化物食” が、
「猫の本来必要とする栄養に近い食事」であると考えられます。
また、多くの減量食や肥満を考慮したキャットフードには、エネルギー源として脂肪が利用されやすくなるために必要とされるアミノ酸の一種である、L-カルニチンが添加されています。
L-カルニチンは、猫の本来の食事である「肉質」(内臓も含む)に含まれるものです。
キャットフードに十分(かつ良質)な“肉質”が使われている場合、L-カルニチンの添加は必要無いと思われます。
1日に食べる食事の量を良く確認する事
当然の事ですが、減量をする上で忘れてはならない事は、低脂肪食でも低炭水化物食でも、それぞれの猫に合った「適正量」が必要です。
因みに、キャットフードのパッケージ等に記載されている「1日あたりの食事量」は、あくまでも“目安”であり、体重あたりの“決まった必要量”(絶対量)ではありません。
ある統計データーでは、メーカーの表示通りの食事量を与えた場合、半数以上の動物が過体重(肥満)になる事が示されています。
「肥満である事は食べ過ぎているのだから、減量するなら手っ取り早く食事の量を減らすだけで良いのか?」 と言えば、そうではありません。
食事の量を単純に減らし過ぎてしまうと、必要とする蛋白質などが減ってしまい、結果として減量の為に必要な代謝が十分に働かなくなってしまいます。
若い頃から肥満度が高かった猫が、肥満のまま高齢になってシニア用のドライフードになり、お腹周りや内臓脂肪は一向に減らないのに、 “筋肉が痩せていく” と言う状況は珍しくありません。
(この様な状況で病気になると、より具合が悪くなる傾向があると思われます)
特に、肥満度の高い猫においては、急激なダイエットは脂肪の利用が上手く働かずに、脂肪肝を起こしてしまうこともあるため注意が必要です。
減量の為の「適正量」を決めるためには、猫の肥満度をしっかりと確認する必要があります。
また、現在食べている食事の成分と食事の量を確認する事で、肥満になってしまった事に対しての改善点が分かりやすくなってきます。
実際には、ご家族が考えているよりも猫の肥満度が高い事も多く見られます。
出来れば、動物病院で現在の体型(肥満度)を客観的にBCS(ボディコンディショニングスコア)で評価した上で、目標とする体重に対しての必要エネルギー量を計算して、食事の種類や食事の量を決めた方が良いでしょう。
減量を始めた後も、体重の減り方などを定期的に確認し、食事の量を見直したり、状況によっては再度食事の種類を検討する必要がある事もあります。
また、特に肥満度が高く身体の代謝が「より強い肥満の悪循環」になっている場合、上手く減量が進まない事があります。
より適切な食事が必要である事は言うまでもありませんが、この様な時は、前述のL-カルニチンや抗酸化剤などのサプリメントを適正に併用して行く事が望ましいと考えられます。
猫の肥満対策や減量を成功させるために最も重要な事は、
“ 家族のお考えとお気持ち ” である事は、多くの獣医師で共通の認識です。